2025年ネパールのZ世代による抗議活動の原因や状況を解説
ネパールでSNS規制をめぐって集団デモが発生。デモ中の若者が19人死傷したことで、国会や議員など政治家が暴徒によって襲撃される事態に発展し革命のような混乱になった。『スリランカも(民衆が抗議を)行った、バングラデシュも行った、インドネシアでも行われた、ネパールでも遂に行われる』と言う動画が出回っている。ネパールで抗議活動が起きている原因と現在の状況を解説する。各ソースは記事最後部に記述。
目次
Z世代主導の抗議活動中に起きた出来事
- 最高裁判所、公文書館、検事総長室などが襲撃され、数十年にわたる事件ファイルや司法記録が焼失。
- 省庁、行政機関が集まる複合施設であり歴史的建造物もあるシンハ・ダルバール宮殿が侵入され炎上。
- ビレンドラ国際会議センター(国会議事堂・連邦議会)が放火され炎上。
- 大統領官邸(シタル・ニワス)も占拠され炎上。
- メディアのカンティプール・メディア本社ビルやレインチョールのNcellタワーが放火される。
- 政治指導者のシェール・バハドゥル・デウバ、プシュパ・カマル・ダハル、ジャラ・ナート・カナル、ガガン・タパ、モハン・バスネットなど、複数の高官の住居が襲撃され、多くの場合放火された。
- シェール・バハドゥル・デウバ、エク・ナス・ダカル、ビシュヌ・プラサド・ポウデルなどの政治家、或いはその妻、他警察官などが複数の暴徒によって襲撃される様子がネットに流される。
- 高級外資ホテル含む多数の民間施設・商業施設が放火や略奪行為の被害に遭った。
- 警察署や銀行やATMが襲撃された。現金やライフルなどが略奪される。
- 刑務所大量脱獄。法執行機関が逼迫したため、混乱の中で全国の刑務所から13,500人以上の囚人が脱獄した。
抗議活動の経緯
2025年9月4日(木) SNS規制が原因
2025年9月4日(木)、ネパール政府はtiktok以外のfacebook、Instagram、X(Twitter)、YouTubeなど含む26の大手ソーシャルメディアをブロックすると発表。理由は、9月3日までに、フェイクニュースなどが跋扈するのを防ぐために各ソーシャルメディアサイトに対し、ネパールの通信関連機関で会社を登録し、必要であればポスティングを規制する等、対処できる責任者を置くよう求め、応じない場合は通信をブロックすると事前に通告していた期限が過ぎたためだった。
ソーシャルメディアの投稿を場合によってはコントロールすること自体は間違いではないといった意見はそれまであった。しかしその手法をきちんと整理せず突然止めるのはどうかといった意見もあった。言論の自由を脅かすと主張する人もいた。しかし最終的にとりあえず期限を過ぎたから遮断ということになった。
ネパールはFacebook利用率が非常に高い。私も色んな国に行ったが、ネパールは国民の多くがfacebookを連絡手段にしている。そのため海外在住者が増えた近年でもネパール人にとっては自然とfacebookが国際電話のツールにもなっていった。海外に子供たちを送り出している家族は連絡も取れなくなる状況になる。
2025年9月8日(月) 抗議デモ中に学生死亡で暴走
2025年9月8日(月)、この突然のSNS遮断に怒り狂ったZ世代(90年代後半~2010年代前半に生まれた世代)が、SNS規制の撤廃とK.P.シャルマ・オリ首相の辞任を要求して集団抗議活動を起こしたが、デモの最中に19人が撃たれ死亡、多くの群衆が二十歳前後の抗議者が死亡したその時の映像を撮影していたため、ネットで拡散し抗議活動は更にエスカレートした。もともとネパールでは政治への不満が非常に高いという下地があったため、この機に続々と政治家非難が噴出。facebookを中心に、抗議した若者は死に政治家の子供はぬくぬくと生きている、という投稿が溢れて、あらゆる政治非難へと急激に変容した。ネパールでは最近、政治家のNepo Baby(親のコネで生きる子供)を批判する投稿が相次いでいたほど政治に対する不満が募っていた。Nepo(ネポティズム=縁故主義)とNepalで発音のゴロが良いのも拡散し易かった。デモ隊の中心人物、スダン・グルンの要求
デモ参加中の若者が死亡したことで、抗議活動の中心物とされたスダン・グルン氏は下記の声明を出した。- 同胞を死なせたK.P.オリ首相は辞任するべき。
- 大臣たちも直ちに辞任すべき。
- デモ参加者を射撃した人物は厳正な措置が取られるべき。
- ネパールの若者による暫定政府を樹立すべき。
SNS規制解除と首相辞任でも暴動は収まらず
急速に悪化する事態を重く見てK.P.シャルマ・オリ首相は辞任を表明、SNSも再び接続可能に戻したが、すでに暴徒と化したZ世代はシェール・バハドゥル・デウバ氏やエク・ナス・ダカル氏など複数の元首相やビシュヌ・プラサド・ポウデル元財務大臣を含む政治家たちの家やデータセンターや国会を襲撃。政治家の家々が燃やされ、facebookでは元首相やその妻が襲撃される様子や、群衆が政治家を川に追い込んで見せしめにしている様子、またある他の政治家はヘリコプターで逃げる様子などもアップロードされている。襲撃された政治家の妻の一人は病院に搬送されたが死亡したとのこと。警察の制服を略奪してパフォーマンスする様子も多く出てきている。視聴者は概ね抗議活動応援と政治家への罵倒ばかりで、特に『Power of gen-z』や『私腹を肥やす腐敗を断罪』と言ったコメントが多くついている。つまり若い暴徒たちを煽っている。Facebookで確認してみると良い。また、侵入した政治家の邸宅を撮影しながら、税金がこんなものに使われてきたと言った内容の動画も増えてきている。
この様な肯定的な意見が多いのは、ネパールでは延々と政治腐敗が指摘されてきたが、議員たちはひたすら選挙で勝ち続けてきた状況がある様だ。
在住者はご存じの通り、ネパール人と話すと必ず政治腐敗を指摘する話を何年もずっと聞かされてきたし、SNSでは以前から政治家を非難する投稿が絶えなかったので、政治への不満が機を見て遂に爆発といった感じか。
しかし、デパートや高級外資ホテルが襲撃されて燃やされている映像や、警察署や銀行が各地で襲撃されたり、ネパール各地の刑務所から10000人以上の囚人が脱獄したというニュースも出てきているので、今回は外国人にとっても危ない状況かもしれない。以上が原因と現状だ。
抗議活動が多くの賛同を得た背景
さて、破壊行為も目立つなか、市民の多くが今回の抗議活動を歓迎し、多くの応援コメントを寄せているのはなぜなのか、以下の要因が指摘されている。腐敗した政治への不信や怒り
ネパールではかねてより政治に対する不満が高い。元々1996年から2006年までは内戦をしていたぐらいだし、2008年に王政が終了となったこともあったが、近年は社会主義や王政復古など様々な党が支持率を伸ばし政治に対する何かしらの変革を望む声が非常に高かった。ネポティズム(縁故主義="コネ")への憎悪
最近ネパールでは若い世代が利用するSNSを中心に、困窮し外国に出稼ぎに行くしかない若い世代と国状に対し適切な指導者が不在のまま、政治指導者たちの子供たちは贅沢三昧していることが物議を醸していた。縁故主義を意味する英語Nepotismをもじって、Nepo baby、Nepo Kidsと言った表現が多くみられた。高い失業率
若い世代の失業率が高いことや、就業者の給料が全く変わらないまま近年物価の際立った値上げが相次いでいて生活が苦しくなっていた。実際にネパール人たちのSNSを覗くと今回の抗議活動における不必要な破壊に対する心配をしつつも、いかに多くの人が今回の変革を支持し新たな指導者を直接自分たちで選ぶことに熱狂しているかがリアルに見ることができる。
ちなみに、ネパールは滞在中の外国人に対し、独自開発したモバイルアプリへの登録を義務付ける予定らしい。目的はネパールにいる外国人を追跡可能にすることで、観光や安全確保を円滑にできるようにするためらしい。これも随分な話だと思うが、あまりニュースになっていない。外国人が来たがらなくなるのではと言う意見もある。
まさかこんな山奥の国が他の如何なる国より優しく寛容で自由で平和で多様性ある国だったとは、と驚かせ訪問者を魅了してきたネパールが、こんなことになってしまうとは、凄く心配している。
ソース
- ネパールがsnsブロック:https://www.reuters.com/sustainability/society-equity/nepal-block-some-social-media-including-facebook-2025-09-04/
- オリ首相辞任:https://www.bbc.com/news/articles/c0m4vjwrdwgo
- ネパール国会炎上:https://www.aljazeera.com/news/2025/9/9/nepali-pm-forced-to-step-down-parliament-torched-amid-deadly-protests
- 襲撃された政治家の妻の一人は病院に搬送されたが死亡:https://hindi.asianetnews.com/world-news/nepal-violence-today-former-pm-jhalanath-khanal-wife-burnt-alive-in-kathmandu/photoshow-gstnlav
- 抗議活動に乗じて囚人が脱獄:https://timesofindia.indiatimes.com/world/south-asia/over-13500-break-free-from-jails-some-wanted-in-india/articleshow/123821081.cms
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